X線と装置
X線の発見
X線はRo"ntgenによって1895年に発見された。図1に1986年にX線を発見し,医学や科学に大いなる貢献をしたWilhelm Konrad Ro"ntgenの顔写真と,X線の発見へとつながった彼の妻の手のX線透過写真を示す。
彼はβ線の研究をしている時にX線を発見したとされているが,当時の彼の実験室の写真を図2に示す。彼が発見したX線はすでに1902年は図3に示すように頭部の細部に亘る血管を映し出すまでに,その技術が高度化してきた。
X線は図4に示すように,電気の波:電磁波としての性質と,光の粒子:光量子としての性質を持っている。このために光や電波と同じように直進する。
しかし,その光量子が持つエネルギーは目で見ることができる可視光の1,000倍~100,000倍程度大きい。このために,X線を物質に入射すると,X線と物質との相互作用が起こり,物質に含まれる情報がX線等として放射される。X線を資料に入射したとき,資料から放出される信号の種類を図5に示す。
蛍光X線分析法
原子は原子核とその周りを周回運動している軌道電子とにより構成されている。原子核は正の電荷を持つ陽子と電気的に中性な中性子から成る。軌道電子は負の電荷のために陽子を持つ原子核とクーロン引力により引きつけられる。これと同等の遠心力が電子に働くように電子は周回運動を行い,バランスよく円周上に安定な軌道を築いている(図6)。この安定な軌道は波動関数によって表される。その波動関数に対するエネルギー固有値,すなわち各電子が存在する軌道のエネルギーが与えられる。これをエネルギー準位と呼んでいる。
物質にX線を照射すると,強いX線は透過し,これは人体にも用いられ,医学的に有用であることはよく知られているが,エネルギーの弱いX線を照射すると,その試料を構成している原子を励起する。このとき内殻準位の軌道電子を光電子として原子の外側に放出する(図7)。励起された原子は外殻の電子が内殻の空位準位に遷移することにより基低状態に移行し,そのエネルギー差に相当する電磁波を特性X線として放出する(図7)。遷移に寄与する電子レベルのエネルギーは原子に固有であるために,放出された蛍光X線のエネルギーは原子に特有のものである。従って蛍光X線のエネルギーを測定することにより試料中に含まれる元素の定性分析が可能であり,またその強度比較より定量分析が可能である(図8)。これを蛍光X線分析法とよび古くから非破壊な分析法として定着している。
X線分析装置を用いて,図8に示すようなX線スペクトルを得ると,試料に含まれる元素によっていくつかのピークが現れる。これを特性X線と呼び,このX線のエネルギーと元素は図9に示すように対応付けることができる。すなわち特性X線のエネルギーがわかれば,この表を用いてそのピークが何の元素によるものかがわかる。また,その強度より含まれる量をしることができる。
蛍光X線分析装置には,試料からの蛍光X線の分光および検出器系の違いにより,(a)波長分散型と(b)エネルギー分散型 に大別できる(図10参照)。
波長分散型はX線分光器を必要とすることから大型で主に研究室内で利用される。波長分散型の蛍光X線分析装置を図11に示す。
これに対して図12に示すエネルギー分散型では,試料からの蛍光X線はエネルギー分解能をもった半導体検出器で検出され,X線のエネルギーに比例したパルス高の電気信号を計測し,直接スペクトルを得る。このために計測時間が短縮されるとともに装置は一般的に小型でかつ測定が容易である。
可搬型蛍光X線分析装置
測定したい場所で,測定することを目的に開発されたのが可搬型蛍光X線分析装置である。図13に可搬型蛍光X線分析装置の構造を示す。装置は測定を行う測定ヘッド部,測定信号を増幅しデジタル信号に変換するパルス信号処理部やX線制御部等を含んだ計測・制御部,データの処理を行うノート型パーソナルコンピュータより構成されている。測定ヘッド部に小型X線管,分光器,半導体検出器を内蔵している。試料を励起する一次X線の発生源である小型X線管は,実効焦点φ0.2mm,最大出力40kV-1mA,タ-ゲットはMoで,分光器は一次X線の単色化・集光を目的とし,直径約20mmの円筒状に曲げたLiF(200)結晶を中心にX線管の焦点と測定試料上の集光焦点を対称に配置し,結晶への入出射両側にはMo製の円周状スリットを挿入した。検出器はペルチェ素子冷却型Si-PIN PDを用い,Mn-Kα線で300eV以下のエネルギー分解能で元素分析を行う。測定結果はノート型パーソナルコンピュータの画面に表示し,プリンターで出力することができる。製品化されたものが図14で,多くの現場で活用されている。これらの可搬型蛍光X線分析装置は考古学の分野のみならず。犯罪捜査の現場でも活用されている(図15参照)これらの装置では車載で使用できるために,機動性に富んでいる(図16参照)。また最近では,考古学専用の国産可搬型蛍光X線分析装置も市場に供給されており(図17参照),図18に示すようなピストル型の超小型携帯成分分析計として小型の蛍光X線分析装置が発表され,実用的に利用されている。
X線回折法
蛍光X線分析法では試料を構成する元素の量を比較的正確に求めることができる。しかしながら化学成分が同じであっても異なる性質を示す物質は数多くある。例えば黒鉛とダイヤモンドでは同じ炭素で構成されているが,外見や性質は全く異なってくる。また鉄を含むが三酸化二鉄(ヘマタイト),四酸化三鉄(マグネタイト),一酸化鉄(フェライト)などの同定を行うことができない。このような場合にX線回折法が有用である。
結晶にX線が照射されると,X線は原子によって散乱され,これが互いに干渉して,その結果として反射する。これを結晶によるX線の回折という。
可搬型X線回折装置
エジプト調査のために新たに開発した「可搬型X線回折装置」は,組成構造が現場で短時間(約8分)に測定できる。図19に可搬型X線回折装置の構造を示す。
装置は測定を行う測定ヘッド部,測定信号やゴニオメーターの制御等を行う計測制御部,およびデータ処理を行うノート型パーソナルコンピュータより構成され,X線管はCr・targetを使用し,最大出力は40kV,1mAで,高圧部は油浸として,ファンで空冷とした。回折X線の検出器としてシンチレーションカウンタ,8mmφの超小型シンチレータを用い,プリアンプは表面実装部品を用いて小型化に努めた。パルスモータの回転により歯車Dを回転させ,シンチレーションカウンタを2θ軸として回転させる。このような機構を用いることにより回転中心をフリーにすることができ,ここに試料面を設定することが可能となる。シンチレーションカウンタからの信号は信号処理系を経由してノート型パーソナルコンピュータに記録される。図20に実際に開発された可搬型X線回折装置の概観と得られた結果の一部を示す。
また,図21に白色顔料の代表的なもののX線回折パターンを示す。この回折パターンにより顔料等の化学構造に関する情報を抽出することができる。







